医療法人の監査とは?
医療法人監査は、経営の透明性の確保を目的として、厚生労働省令に定められた基準等(主に医療法人会計基準)に準拠して、計算書類が作成されているかをチェックすることです。
表1に医療法人監査と一般的な外部監査の異同をまとめています
<表1> 医療法人監査と一般的な外部監査(金融商品取引法監査、会社法監査等)との異同
| 医療法人監査 | 一般的な外部監査 (金融商品取引法監査、会社法監査等) | |
|---|---|---|
| 対象・利用者 | 一般目的、広範囲の利用者 | 一般目的、広範囲の利用者 |
| 会計基準 | 医療法人会計基準及び医政局通知等 | 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準 |
| 監査意見 | 準拠性に関する意見 | 適性性に関する意見 |
| 監査人の判断 | 会計基準準拠性のみで計算書類が全体として適正か否かの評価は行わない | 会計基準準拠性の他、財務諸表が全体として適正であることの評価を行う |
医療法人監査の監査人について
準拠性ということで監査の保証水準が変わる訳ではありませんが、医療法人監査の場合は、より限定された範囲での監査という位置づけと捉えられます。
よって医療法人監査を実施する監査人には、医療法人会計基準及び医政局通知のみならず、医療業界特有の問題に対する理解が求められます。
医療法人監査の専門家が必要とされる理由
医療法人監査の専門家が必要とされる理由として、下記二点が挙げられます。
①医療法人会計基準と病院会計準則との相違
医療法人の会計については、施設基準である病院会計準則 (平成16年8月19日医政発第0819001号)に沿った会計を行っている所も多く散見されます。
医療法人監査の対象となる医療法人は、医療法人会計基準の適用が強制される (社会医療法人のうち社会医療法人債発行法人を除く)ことから、医療法人会計基準への対応が必要になります。
<表2> 医療法人会計基準と病院会計準則との相違
| 差異項目 | 医療法人会計基準 *1 | 病院会計準則 |
|---|---|---|
| 目的 | 法人全体の財政状態および経営成績を明らかにする(法人会計) | 病院毎の経営に有用な情報を提供し、会計情報の比較可能性を担保する(施設会計) |
| 新しい会計処理の導入 | 固定資産の減損会計、税効果会計の適用※2 | 規定なし |
| 純資産の表示 | 「資本金」を「出資金」、「利益剥余金」を「積立金」に変更し、「基金」を「出資金」と「積立金」の間に表示 | 特段科目の規定なし 必要に応じて科目分類し、当期純利益を内書き表示 |
| 事業損益と事業外損益の科目区分 | ||
| 運営費補助金収益 | 事業収益 | 医療外収益 |
| 施設設備補助金収益 | 事業収益 | 医療外収益 |
| 患者外給食収益 | 事業収益 | 医療外収益 |
| 診療費減免額 | 事業費 | 医療外収益 |
| 補助金の会計処理 | 圧縮記帳(直接減額又は積立金経理) | 負債計上し、減価償却に応じ医業外収益計上 |
②組織体制
従前、病院機能評価、ISO認証等の過程で組織管理体制を構築・整備してきた医療法人を除き、組織管理体制を整備している医療法人は少ないと思料される為、監査に耐えうる組織管理体制の整備が急務です。
< 表3 > 組織体制について
| 項目 | 問題点 | 改善策 |
|---|---|---|
| 規程の未整備 | 経理規程、人事規程、業務関係規程がなく、担当者に依存して業務が行われている | 業務のマニュアル化、規程化が必要 |
| 受払・在庫管理システムの未整備 | 医薬品・医療材料の受払記録管理・単価の登録、在庫管理について何も行っておらず、発注と仕入のみ管理している | SPDシステム(物品物流管理)を導入し、経営効率化・医療の安全性向上を図る必要がある |
| 実地棚卸の体制未整備 | 実地棚卸を各現場毎に任せており、適時性・精度が不十分 | 棚卸実施マニュアルに沿って、実地棚卸の時期、方法を徹底し、正しいカウントができるようにする |
| 固定資産管理体制の未整備 | 固定資産番号管理を行っておらず、実査も行っていない為、固定資産台帳と現物の整合性が確認できない | 設置場所・番号を管理し、定期的に実査を行って台帳と現物との照合を行う必要がある |
| 医業未収金管理体制の不備 | 診療未収金が多額に滞留しているにも関わらず、防止の対策も特段なく、督促の方法・手順・部署等のマニュアルも存在しない | 診療時・入院時から会計時・退院時に渡り、滞留を未然に防止する方策を策定すると共に、滞留が発生した場合の対処方法をマニュアルに基づき行うようにする必要がある |
| 診療報酬請求事務に関る管理体制の不備 | 査定・返戻・請求保留が多額に生じている、又は施設基準が順守されておらず、結果的に不正請求となってしまっている | 診療請求事務につき、定期的に診療報酬改定の研修等を行い情報を共有すると共に、医事課内での複数人でのチェック体制を強化する。又、施設基準等が継続的に順守されているかを確認する体制を徹底する |
| 理事会開催の不備 | 業務の執行状況の報告は定期的に理事長に行うことになっているものの、理事会開催の形跡はなく、重要事項の決定が文書で保存されていない | 医療法上、理事長は3ヶ月に1回以上、理事会を開催し、業務の執行を報告する義務を負うため(定款で別途1年で2回以上の開催と規定している場合は除く)、定期的に理事会を開催し、議事録等を保存する必要がある |
医療法人への監査が導入された背景
2003年
平成15年3月26日
厚生労働省「これからの医業経営の在り方に関する検討会 最終報告書」において、
医療法人に求められるもの
非営利性、公益性、効率性、透明性、安定性
と取りまとめされました。
2005年
平成17年7月22日
厚生労働省「医業経営の非営利性等に関する検討会報告」において、
透明性の高い医業経営を各医療法人が遂行できるようにするため、 医療法人制度について、継続してそのあり方を見直すべきと共に「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人のうち、社会的な影響が大きい一定規模以上のものについては、経営の安定性の要請から、公認会計士や監査法人による財務諸表監査を受けなければならないものとするべき。
と結論付けられました。
2015年
平成27年2月9日
厚生労働省「第10回 医療法人の事業展開等に関する検討会」にて
医療法人については、健全かつ適切に業務運営を行うために、経営の透明性の確保及びガバナンスの強化が求められている。
とされ、経営規模の大きい医療法人の経営の透明性の確保が不充分ではないかとの指摘がありました。
社会的責任も考慮し、経営の透明性の確保の為、学校法人同様、一定規模以上の医療法人を対象に公認会計士等による監査を義務付けるようになりました。
平成27年4月3日
改正医療法案 閣議決定・国会提出
平成27年9月16日
改正医療法 成立

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